拒否は情報収集のチャンス

認知症のある方へ対応しようとして
暴言や暴力や介護抵抗があると
正直、しんどいですよね。

そうすると
無意識の自己防衛から
「どうしたら暴言や暴力や介護抵抗を受けずに済むだろうか」
という観点に立って対応を考えようとしてしまう人が圧倒的に多いものです。

でも、そうじゃない。
気持ちはよくわかるけど。

そのような観点に立って
為されたことが効果があるわけがない。
(だって、自己防衛の観点で対象者の観点ではないもの)
仮に短期的に効果があったとしても
長期的にはむしろ逆効果にしかならない。

ここで、私は決して
介助者が我慢すべき。などといっているわけではありません。

暴力を回避できるような設定は必要です。
でも、自身の身を守ることと
暴力という表現でしか表出できなかった意思や感情と
それらの前提としての判断や感受についての
情報収集をすべきということは別物です。
それがないとどうやったら回避できるのかの適切解も導き出せない。
 
拒否された、その時その場にいる人が
一番よく状況をわかるのです。

どのような場面で
どのような状態像の方に
どんな関与をしたら
拒否されたのか

ここは、情報収集のチャンスなんです。

拒否は表面的な言動であって
必ず、拒否というカタチに現れている障害と能力があります。

そこを観察・洞察すれば
本質的な改善のミチがひらけてきます。

  

食べられる口をつくる

 


食事介助において
開口してくれない、吐き出してしまう
という方はたくさんいます。

その時に
まず、食べられる口かどうか、ということを
きちんと確認することから始めています。

臨床的に多いのが
口の周りの筋肉や頸部の筋肉、場合によっては全身が硬くなってしまっている
というケースです。

その結果、
食べようとして開口するけど送り込めずに吐き出したり
前の食塊が残っているから開口しようとしなかったり
ということも起こります。

こういう時には
「どうやったら吐き出さずに食べてくれるのか?」
と考えるのではなくて
「食べられる口をつくる」
方が先決の場合があります。

食べるに足る機能がないのに
食べさせようとするだけでは
本末転倒になってしまいます。

では
食べられる口をつくるには、どうしたら良いのか?

まず、食事の時の姿勢設定
次に、筋緊張のコントロール
そして、最後に口腔内マッサージ
と考えています。

具体的には
ベッド上もしくは車椅子上での的確なポジショニング
スポンジを活用して頸部〜胸部〜上肢の筋緊張の緩和
ラクに開口できる体験
です。

開口してくれない
硬く口をつぐんでいる方にどうしたら良いのか?

詳細は
順次ご説明していきますが
お急ぎの方は「長野県摂食・嚥下リハビリテーション研究会」さん主催の研修会
「認知症のある方の食事介助〜事例を通して」をお聞きください。
こちらの講演で対応のごく一部ですが、お伝えする予定です。
お申込期日は11月16日(水)19時まで。
詳細は_こちら_をご参照ください。

そして
付け加えるなら
そのような大変な食べ方になってしまった方たちは
最初からそんな状態ではなかった
ということです。

もっと早くラクに食べ方を再学習できたはずなんです。

 


今年度勉強会開催について

 


当初は
今年度は勉強会を3ヶ月に1回くらいの割合で開催できればと考えていました。

そのお知らせをしようと考えていた矢先に
私の両親の体調不良が発覚し
入転院や介護保険に関する手続きなどがあり
職場のコロナ渦への対応も重なり
心身ともにちょっと相当負荷のかかる時期を過ごしていました。

父は逝去しましたが
母の体調不良は続いており
今年度は勉強会を開催できそうにありません。
大変申し訳ありません。

状況が落ち着きましたら
勉強会も再開してまいります。

Activityや食事介助、身体的なリハなど
そしてそれらへの介入が意味する視点と考え方など
お伝えしたいことはヤマほどあります。

流布しているギョーカイの常識的対応に流されず
本質を追求していく人たちの背中を押すことができるような
勉強会開催やサイト運営を目指しています。

今後とも引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


講演@長野県摂食・嚥下リハ研究会

11月20日(日)に
長野県摂食・嚥下リハビリテーション研究会さん主催の
オンライン研修会が開催されます。

長野県以外の方でも
上記研究会に所属していない方でも
ご参加いただけるとのことです。

詳細は_こちら_をご参照ください。
 
「開口しない」「ためこむ」「介助を拒否する」などの事例を通して
観察のポイント・それらの困難に反映されている状態像の洞察と介入方法について
具体的にお伝えします。

「食べさせる」のではなく「食べることの援助」についてお伝えします。

食事介助の奥深さをきっと実感いただけると思います。

 

 

研修会終了@県央地区リハ連絡会 

 

 
おかげさまで
県央地区リハビリテーション連絡会さん主催の研修会
「認知症:明日からの臨床にきっと役立つ知識・考え方・対応の実際~事例を通して~」を昨日無事に終了することができました。

窓口となってくださったおふたりのHさん初め運営を担当されたみなさま
お世話になりました。
どうもありがとうございました。

130名を超えるお申込があったとのこと。
受講された方もお疲れさまでした。

私がお話した内容は
聞くには、わかりやすいかもしれませんが
実践するには、難しいかもしれません。

何をしたら良いのか
どうしたら良いのかとハウツーを考える人にとっては。

ただし
対象者の方をきちんと観察する
援助の視点を外さない人にとっては
きっと助けになる内容
本当に実践的な内容だと自負しています。

実践してみると
疑問や不安も出てくると思いますが
その時にはぜひ、こちらのサイトや
「月刊よっしーワールド」をご活用ください。


本当にオススメ!スポンジリハ

  


手指の拘縮の強い方には
スポンジを握っていただくのが、ものすごく効果的です。

既に下記の記事で書いていますが
拘縮悪化予防スポンジ
スポンジでROM
三度、オススメさせて下さい ( ^^ ;

長時間、握る必要もなく
日中の2時間握ってもらっただけで
外した時にも筋緊張緩和の効果が続きます。

手指を硬く握り込んでしまっているので
伸ばすのに数分かかるし
それでも手指はガチガチのまま。。。
それが。。。

な、なんと!
指先が手掌から離れている。。。!!!
手指を伸ばすのに全然抵抗感がない。。。!!!

したことといえば、スポンジを握ってもらっただけです。

ウソみたいなホントの話です。

ポイントは
1)すぐにつぶれない材質のスポンジを選ぶこと
2)スポンジの大きさ
  ・最大可動域よりも少し小さめの大きさにすること
  ・あくまでもその方の拘縮変形に合わせて作ること
   (理想的な手の形にするのではない)

そのココロは。。。
「ウソみたいなホントの話:スポンジ解説編」
をご参照ください。

 


県外の方でもお申込できる研修会

 


2022年10月21日(金)19:00〜21:00に
神奈川県県央地区リハビリテーション連絡会さん主催で
オンライン研修会が開催されます。

神奈川県以外の方でも
作業療法士以外の方でも参加可能です。

詳細は _こちら_ をご参照ください。

立ち上がりではなく座る練習を


前の記事とも関連しますが
高齢者に対して、立ち上がりのリハをする人はたくさんいます。
でも、良かれと思ってかえって腰背部の過剰な同時収縮を強めてしまい
身体を固くさせてしまうので、逆効果になっているんです。

確かに、歩けても立ち上がれない方や
立ち上がるのに時間がかかる方は大勢います。

その状態に対して、老化・廃用・筋力低下→筋力強化・立ち上がり
という図式的な説明が為されることが多いのですが
これもまた、良かれと思っての誤解です。

筋力低下状態、例えば、筋萎縮性側索硬化症のような筋力低下状態にある方と
高齢者の立ち上がり方は全然違いますよ。

立ち上がる機能はあるのに
立ち上がり困難な方の一番の特徴は、腰を浮かせる時の強い抵抗感です。

腰を浮かせられない=筋力低下
とは表面しか見ていないから言えることです。

実際には、腰を浮かせるために必要な
円滑に腰背部の筋肉を伸ばして足底に重心を移すことが
文字通り、うまくできないのです。

「頑張って!」「しっかり立って」「足に力を入れて!」
と声をかける人の善意を疑うものではありませんが
そのような声かけは腰背部の過剰な同時収縮を一層強めてしまい
立ち上がることに効果がないどころか、逆効果で立ち上がれなくなってしまいます。

また、結果として起こっているそこだけを見て、筋力が低下している
なんて判断をするのですから、悪循環にしかなりません。。。

むしろ、座る練習が必要なんです。

立ち上がれない方は、同時に座り方も上手にはできません。
スムーズに座れないんです。
どっかと後方へひっくり返りそうになってしまったり
静かにそっと座ることができません。

そのような方に対しては
重心の移動方向に注意して
静かに音がしないようにそっと座る練習をします。
背中に手を当てて重心の移動方向をコントロールします。

座る練習をしただけで
立ち上がれるようになった方は大勢います。

身体各部の協調の練習をしていたからです。
座るのと立ち上がりとは、使う筋肉は同じで重心の移動が真逆なだけです。
だから、効果があるのです。

立ち上がり100回なんて練習をして
腰部の筋緊張を高めてしまうと、
下肢の強張りや座位保持や臥床時の姿勢にも
悪影響が出てしまいます。

ぜひ、座る練習を試みてください。
ポイントは重心の移動方向です。
ここさえ、的確に介助できれば状態は改善します。
決して過剰な努力をさせずに、積極的な介助をしてください。

決して、筋力低下が問題ではなく、
過剰努力によって身体協調性が低下してしまったことが問題なので
がんばらせることは過剰努力を引き起こしてしまいます。

ラクに
スムーズに
座ることができるように
介助を通して、もっている身体協調の再学習を促してください。


舌が硬い方の食事介助

食事をため込んでしまう方
喉頭が不完全挙上している方の場合に
舌がまるで板のようにガチガチに硬くなっている
ということがよくあります。

そのような場合には
1)食塊認知を促す
2)頭部を支える
3)前舌もしくは下唇をスプーンで押す

ことを続けるだけで、舌が柔らかくなってきます。

1)食塊認知を促す
  スプーンで食塊をすくった後にすぐに口の中に入れてしまう人は多いですが
  それはダメダメなスプーン操作です。

  開口するタイミングを把握しにくいのと
  目で見る機会を設けないことで身体の準備をする機会を奪ってしまっています。

  目で食塊を見ることで視線を下方に向けることができます。
  視線が下がれば体幹は前傾しやすく頚部も前屈しやすいように筋肉が働きます。

  逆に
  食塊認知を促さないで介助してしまうと
  自然な反射として、いきなり食塊が口の中に入ってくるので
  体幹は後傾し、頚部の筋緊張も高まってしまいます。

  必ず、すくった食塊を口の前でいったん停止させ目で見る時間を作ります。

  「ちゃんと食事介助したいけど時間がなくてできない」
  という人も多いですが、
  この1秒をかけるとかけないでは雲泥の差となって現れてきます。
  口腔内にためこまれて10秒待つよりも1秒待つ方が良くないですか?

  たかが1秒、されど1秒
  この1秒に大きな意味があります。

2)頭部を支える
  身体はつながっているので
  舌が硬いという場合にはたいてい頚部の筋肉も硬くなっています。
  筋肉の余分な緊張をほぐすために
  頭部を支えながら食事介助をします。
  ティルト型車椅子やリクライニングではなく
  普通型車椅子に座っている方でも支えます。
  頚部後屈している方はもちろん、
  頭部が前に突出しているような方にも必要です。
  後頭部に手や腕を当てて、頭の重さを支えます。

  ポイントは「支える」ことで、見た目を修正することではありません。

  重さを支えられたことによって
  筋緊張は緩和しますから、頚部の筋肉がほぐれます。
  そうすると舌の筋肉もほぐれてきます。

3)前舌もしくは下唇をスプーンで押す
  上記の1)と2)によって、舌が動きやすくなる状況を作りました。
  舌が動きやすくなれる環境が整ったところで
  舌の動きの再学習を促すのです。

  スプーンの背で前舌をしっかり押します。
  押された舌は、作用ー反作用の法則によって
  上に上がる動きをするようになります。

  人によっては、舌を触られることを嫌がったり
  舌そのものに触れられない場合もありますから
  そのような時には、下唇をスプーンの背でしっかり押すようにします。

舌がガチガチに硬い場合でも
多くの場合にムセることもなく
最初はためこみもみられないものです。
だから、食べ方を観察していない介助者は
努力して食べていることに気がつきにくい。

舌は本来しなやかに動く者です。
だから食塊再形成もできるし送り込みもできる。
それがガチガチになっていたらものすごく大変です。
でも、対象者はすごく頑張って努力して送り込みをしています。

過剰な努力に力尽きた時にためこみが起こります。
ためこみは結果です。
スムーズに舌が動かせない結果。
本当はためこんでいるのではなくて、送り込みが難しいのです。
送り込みができない結果として、ためこんでいるのです。

問題は、そのような状況に陥るまで
対処できなかった介助者の側にあります。

「ため込んで飲み込んでくれない人にどうしたら良いか」
という質問をよく受けますが、本末転倒です。

もっと早く気がつけば、もっと早く対処ができて
食べる方も介助者も、もっとラクに食事場面を共有することができたのに。。。

でも、まだ希望はあります。

今の能力でラクに食べられて栄養が取れる食形態に変更します。
問題は舌の動き・口腔期にあるので、
ごく薄い粘性の液体の栄養補助食品が望ましい。
舌に負担をかけずに、舌の動きの再学習を図ります。

ため込んでいるから、誤嚥しないようにトロミをガッツリつけるのは
効果がないどころか、逆効果、やってはいけないことなんです。

再学習が進めば
食形態を段階的に上げることができます。

1)と2)と3)は同時に行うことが大切です。

たくさんの方が舌が動くようになってきた経験をしています。
そして、意思疎通困難と呼ばれていた方が
舌の柔らかさを取り戻した時に、意思疎通が可能になってきます。

「自分の世界に閉じこもっている方」
「何を言っても怒りっぽい方」
「反応がない方」
と言われていた方に
「どうもありがとう。気をつけて帰るんだよ。」と言われたり
会話が成り立ったり
ということは、山ほどあります。

こんなにわかっていたんだ。。。
どんなに辛かっただろう。。。

基本的なスプーン操作を徹底していれば防げることです。
一番は予防です。
予防できなかったとしても、
できるだけ早期に誰か一人でも気がついて
的確な対処ができれば悪化は防ぐことができます。

よく、飲み込む力の低下という言われ方をしますが
実際には、筋力低下が問題ではないことの方が多いです。
協調低下、協応の混乱ということの方が圧倒的に多いのです。

お年寄りの歩行能力の低下が筋力低下という問題設定がなされていますが
筋力低下は結果として起こる
その前提として身体協調の低下が先に起こっている
ということと全く同じコトが違うカタチで現れているのです。

研修会終了「Activity」

 


羽村三慶病院認知症疾患医療センターさん主催の研修会
認知症のある方の適切なアクティビティって何だろう?」が
無事に終了しました。

Sさん、Iさん始め運営されたスタッフの皆さま
参加された皆さま、お疲れさまでした。

アクティビティにも
ヤマほどの誤解があって。。。

例えば
徘徊する方や帰宅要求をする方の
「気持ちをそらせるためにできることをさせる」とか

例えば
「刺激が少ないと認知症が進行してしまうから何かやらせる」とか

例えば
「わかりやすいだろう」と思って
塗り絵の下絵に子ども用の下絵を提供したりだとか

関与する人の善意を疑うものではありませんが
善意でする→結果も正しい とは限りません。

アンケートを拝見すると
「今までしていたことが誤解だとわかった」と記載されていて
あぁ、良かったと思います。

参加してくれたOTの人たちの感想で多かったのは
「Activity選択の考え方を教えてもらえて良かった」というものでした。
考え方を教えてもらえないから、ハウツーに縋るしかない
という現状も出てくるのだと思います。
臨床現場で必要なのは、理論ではなくて
実際に結果を出せる考え方であり
その考え方に基づいた実践力を自身で体験学習していくことです。

良かれと思っての誤解を少しでも解きほぐし
認知症のある方が余分に傷ついたり困惑したり不安に陥ったりしないように
そんな配慮を怠らずにできる介助者が一人でも増えることを願っています。