対象に語らせる


ADLでも、Activityでも、
視覚情報を明確に伝える
という工夫をしています。

例えば、集団での活動をする時に
座席を指定しているのですが
目印をつけて、わかりやすくしています。

例えば
「緑色の椅子に座って」
「黒いクッションの置いてある椅子にどうぞ」
「白いタオルがかかっている椅子にお掛けください」

目印で覚えられる方もいますし
例え、目印ということを忘れてしまう方であったとしても
座るべき席を案内する時にこちらも説明しやすくなりますし
認知症のある方も理解しやすくなります。

他にも例えば
トイレットペーパーも
患者さんが使用するトイレのペーパーは
必ずペーパーを出して「ここに紙がある」ことを
視覚で端的に伝えるようにしています。


特にペーパーが残り少なくなってきた時には必須です。
引っ張るところを探さなくても、考えなくてもすぐに使える
ことが大切だと考えています。

塗り絵をする時にも
人によっては、あらかじめ見本も一緒に提示します。

近時記憶が低下していると
色を塗っているうちに、「何」の色を塗っているのかを忘れてしまいます。
見本があれば、「あぁ、梨だ」とすぐにわかります。
(下の写真は、大人の塗り絵シリーズです。写実的なのがわかりやすくて良いです。)

もう一つ、私は下絵をそのままで提供することはほとんどありません。
下絵の線をなぞることで
1)線をはっきりとわかりやすくする
2)線の太細の強弱をつけることで図と地の判別をしやすくする
3)筆ペンでなぞって水墨画のような雰囲気にすると
  シンプルな下絵でも幼稚に見えない
などの効果を得ることができます。

近時記憶が低下すると
時間干渉、動作干渉によって
今、自分が何をしていたのか
どこに何があるのか
ということを忘れてしまいます。

ですが、視覚的理解力が保たれている方は
多くいらっしゃいますので
「目で見てわかる」ように
環境設定の工夫をするように心がけています。

覚えていなくても
忘れてしまっても
その場その場で「見る」ことによって
誰かに尋ねなくても
さまざまな行為を遂行することができるように。

水分摂取の促し方

水分を控える認知症のある方は大勢いらっしゃいます。

水分補給の時間帯に「飲んで」と声をかけるだけではなくて
飲みなれた飲み物や好きな飲み物を提供するだけでなくて
さらにもう一工夫。

「もうお腹いっぱいで飲めない」
と言われたら
少し時間を置きましょう。  (時間干渉)

できれば
体操したり
お話したり
何らかの行動をしてもらってから
「ちょっとひとやすみ」と言って飲み物を勧めています。  (動作干渉)

そうすると、たいてい飲めるようになります。

お腹いっぱいという満腹感の自覚と表出ができるということは
とても大切な能力の一つですので
その場で飲んでいただくことを無理強いしない方が良いと考えています。

私が普段何をしているかというと
「少し時間を置く」というのは
時間が経つと忘れてしまうという近時記憶を逆手にとって
時間干渉を活用して新鮮な気持ちで水分摂取に向き合ってもらえます。

また、何か実際に動作をしたことによって
飲みやすくもなります。
別の動作をしたことによって忘れてしまうという近時記憶の低下を逆手にとって
動作干渉を活用して新鮮な気持ちで水分摂取に向き合ってもらえます。

忙しいとどうしても
時間の余裕がなくなるだけでなく
気持ちの余裕がなくなってきますから
「今、ここで」すぐに飲んで欲しいという介助者側の気持ちが生まれてきます。

でも、「今、ここで」を優先すると
結果的にであったとしても
「あんまり飲みたくないのに、飲めと言われたから飲んだ」
「仕方ないから、相手の言うことを聞いて飲んだ」
というネガティブな感情が起こってしまいかねません。

そして、ご存知の通り、感情記憶は残るものです。
今はまだ、相手に合わせるという能力があっても
病状が進行して相手に合わせられなくなった時に
イヤイヤながら合わせて飲んだという感情記憶とエピソード記憶が想起されて
強い拒否となって現れてしまうかもしれません。

今、短期的に問題が生じなかったとしても
本当に適切な対応でないと
長期的に問題が現れる。しかも、認知症のある方がネガティブな感情を抑圧した分も相まって
もっと大きな問題となって現れる恐れがあります。

このくらいの時間帯の中で
という「幅」を考えて対応する。

その時に
相手の近時記憶の程度、時間干渉や動作干渉にどの程度影響されるのか
ということを把握した上で対応すると
今もこれからも、お互いにとってスムーズな水分摂取につながると考えています。

「 OTジャーナル仕事論 Q&A 」補足

11月25日に発刊された
作業療法ジャーナル12月号

「 OTジャーナル仕事論 教えて先輩 Q&A 」
に寄稿しました。

詳細は紙面をご参照いただくとして
概要をご説明しますと
整形外科領域に勤務している臨床3年目のOTから
「対象者のニーズは機能訓練だけど
 自分は作業療法をしたい。
 どうしたら?」
という質問に対して先輩としてお答えするというコーナーです。

紙幅の関係で十分に説明できなかったところもあるので補足します。

OTは仕事だから
自分のやりたいことをやるのではなくて
求められていることをやるのが仕事です。

対象者は整形外科疾患を抱えているのだから
機能訓練を希望するのはよくわかります。
1日も早く良くなりたい
良くなるだけではなくて元通りになりたい
と願っているのではないでしょうか。
対象者の希望に沿って
求められていることを求められている以上に実践してみせましょうよ。

単に機能訓練をするだけではなくて
自主トレを組んだり
生活場面での注意事項を伝えたり
その方の特性に応じて声かけを工夫したり
困難に直面した時にどんな対処を選択する方なのか把握した上で対応したり
それらの何がどんな風に良くてどんな風にイマイチだったのか
抽象化一般化しておくことが大切です。

そもそも
作業療法の定義は、Activityをすることだけじゃないですし。

質問者がどうしてもActivityをやりたい!
と思うのなら、他の領域へ転職を考えるのも選択肢の一つだと思います。

でも、質問者が今いる領域を就職先に選んだからには
それなりの理由があったと思うんですが
そこは納得できているのでしょうか?

働いているうちに新たな発見があったり
興味関心が他に移ることもあるから
方向転換そのものは悪いことではないと思います。

ただ
今の自分の実践を広げ深めることをしていないと
そしてそれらの意義を自身で認識できていないと
Activityを主に扱う勤務先へ転職したとしても
今度は同じコトに違うカタチで直面するだけだと思います。
Activityを適切に扱える作業療法士ではなくて
単なるAct屋に終わる恐れだってありますから。
それも経験かもしれませんが。

「OTの専門性って何だろう?」
「OTとは何だろう?」
このように自他ともに問う人は多いけれど
考えたり、語り合って答えが出るわけがないんです。

続きは、「作業療法の説明が難しい理由」で。

ご参考までに、こちらもどうぞ。
「作業療法とは?よっしーver.」


のびのび靴下が便利!

 

徳武産業さんの
「あゆみ」シリーズから「のびのび靴下」が発売されています。

靴下が伸びるので
脱ぎ履きがラクラク。

むくみのある方でも履いていて快適そうです。

色は4色
サイズは男女共通のフリーサイズです。

リハビリシューズ:パーツオーダー

ふと思い出したので書いています。

徳武産業のケアシューズ「あゆみ」
むくみがあって普通の靴では窮屈な方に向けて
 足囲を17Eまで広くしたり、ベルトを延長したり
装具を履いているために靴のサイズが片方ずつ違う方のために
 片方のみ購入もできたり
その他、靴底変更や寒冷地仕様などパーツオーダーシステムがあります。

通いでも入所でも
初めて介護保険で施設を利用するときに
リハビリシューズを用意するように言われることが多いと思います。

以前は、リハビリシューズの種類も限られていましたが
最近は、機能だけでなく色や柄などデザインも豊富になりました。

窮屈な思いを我慢してまで
小学生が履くような上履きを履く必要はありません。

お値段はそれなりにしますが
一度購入すれば、ある程度の期間は履き続けることが可能ですし
履きもの次第で歩行が安定したり
転倒を防ぎやすくなるだけでなく
座って過ごす時間の快適性が変わってきます。

靴の相談を受けた時には
お値段も高いので何回も購入し直すことがないように
その方の状態と今後を予測した上で
最初から適切な靴を紹介できるようにしたいものです。


ナースコールに蓄光シール

認知症のある方で
ナースコールを使えそうで使えない方がいます。

なぜ、使えないのか
どうしたら、使えるようになるのかは
人それぞれですが
ナースコールを目立たせる工夫が有効な場合があります。

夜中にトイレに行きたくなった時に
ナースコールを探さなくても
目立つように気がつきやすいように
蓄光シールを貼ることもあります。

ナースコールにベタベタ汚れがつかないように
養生テープを貼った上に蓄光シールを貼るようにしています。

「帰りたい」と言われた職員は

私が認知症のある方から
「帰りたい」と言われた時には
「そうですよね。」
「帰りたいですよね。」
「ずっとここにいるわけじゃないけど
 帰るのは今日じゃないんですって。」
とまず、答えています。

その後のやりとりは
その方それぞれ。その時それぞれ。
その方の状態と表出された言葉とによります。

「帰宅要求のある方に対して(1)」
「帰宅要求のある方に対して(2)」

「帰りたい」と言われたご家族は

入院中の方にご家族が面会した時に「帰りたい」って言われると
たいていのご家族が「まだ帰れないの」と諭そうとされますが
「まだ帰れないんだって」
とおっしゃることをお勧めしています。

ご家族だから
病院に迷惑をかけたくない
と思ってのことだと思うのですが
「まだ帰れないの」と言われた認知症のある方は
その言葉をそのまま受け取って
「帰れないことを言い聞かせようとしている」
「どうして帰してくれないの」
と言いたくなってしまい
実際に言葉にされる方もいます。
そうすると、ご家族もよけいに辛くなってしまうと思います。

事実として
退院を決定するのは主治医ですから
「まだ帰れないんだって」
「帰るのはもう少し先だってお医者さんが言ってる」
って言っていただいて大丈夫です。

もっと大切なことは
「まだ帰れないの」という言葉は
認知症のある方の味方ではないように受け取られる可能性があるけど
「まだ帰れないんだって」という言葉だと
私も(ご家族も)帰ってきて欲しいと思ってるけど
今はまだ帰れないという判断をした人が他にいる
というニュアンスを明確に伝えることができます。

ご家族はいつでも味方なんだと
認知症のある方が実感できるように
ちょっとした言葉の違いですけど
受け取られるニュアンスは180度変わってくるので
「帰りたい」って言われたら
「まだ帰れないの」じゃなくて「まだ帰れないんだって」
と言っていただくことをお勧めしています。

 



OTジャーナル12号「仕事論 Q&A」

 

11月25日発刊予定の
「作業療法ジャーナル12月号 Vol.55 No.13」
若手OTからの質問に答える
「OTジャーナルの仕事論 教えて先輩 Q&A 」
というコーナーに寄稿しました。

紙幅の関係で書ききれなかったこともあるので
該当雑誌が発売されたら補足記事を書くつもりです。

お知らせまで。

 


歩き出そうとする方への対応:環境設定

 

歩くのは不安定だけど自分で立って歩いてしまう方の
お部屋での環境設定の工夫の考え方です。

今はセンサーマット・センサークリップ・センサーベッドなど
さまざまな商品が開発されてきているので
それらを活用していない施設はまずないのではないかと思います。

センサーが反応した→すぐ訪室→既に歩いていた、とか既にトイレに座っていた
というような話は多々ありますよね。。。

センサーを活用するにしても
さらに追加でお部屋の環境を工夫しておくと
安全対策が高まります。

環境設定の工夫としては
1)立ち上がり〜歩き出しに時間を稼ぐ
2)より安全に立ち上がり、歩けるようにする
という二つの方向があると思います。

1)の立ち上がり〜歩き出しに時間を稼ぐ
の場合、立ち上がりも歩行も動作的にはできるけど
かなり不安定で転倒リスクが高い方の場合に適応します。

 具体例としては
 (1) 低床ベッドもしくは布団の使用
 (2) 靴や靴下の設置あるいは変更

2)より安全に立ち上がり、歩けるようにする
の場合、立ち上がりも歩行も安定してはいないが
それほど不安定ではない場合やもしくは本人がどうしても歩いてしまう
といったケースが該当します。

 具体例としては
 (1) ベッドの居室内位置の変更
 (2) ベッド周辺につかまれる安定した椅子などの設置
 (3) 視覚的な明示化
 (4) 万が一に備えて外傷対策



さて、では具体的に。

1)の立ち上がり〜歩き出しに時間を稼ぐ

 (1) 低床ベッドもしくは布団の使用
  ・低床ベッドは立ち上がりにくいので
   そこでセンサーが反応してから職員が訪室するまで時間を稼げますし
   仮に転倒しても衝撃を和らげることにもつながります。
  ・布団から立ち上がるためにはかなりのバランスと協調性が要求されるので
   四つばいや膝立ちしている状態で間に合いやすくなります。

 (2) 靴や靴下の設置あるいは変更
  ・靴をきちんと履く習慣のある方には靴をベッドの足をつける位置に
   揃えて置いておきます。
  ・もっと時間を稼ぐためには靴下を靴の中に用意しておくのもテです。
  ・ただし靴や靴下を自分で履けない、もしくは誤って履いてしまう方の場合には
   チャルパー(徳武産業)のような踵があるスリッパに変えたり
   場合によっては裸足で歩いていただくことも選択肢となってきます。

 

2)より安全に立ち上がり、歩けるようにする

 (1) ベッドの居室内位置の変更→動線の安全性を高める
  ・基本的には壁などに手をついて支え歩きができるようにする
   そのためにベッドの位置を変更するということです。
    起き上がる方向と壁の間を狭くしたり
    (起き上がらない方向には柵を2本設置しておく)
    ベッドの頭方向の柵に捕まって移動できる位置にベッドを動かす

 (2) ベッド周辺につかまれる安定した椅子などの設置
  ・安全につかまり歩きができるようにつかまりポールや
   ガッチリ安定した椅子などを置いておく 

 (3) 蓄光シールを要所に貼付する
  ・夜間でもつかまれる場所がわかりやすいように
   あるいは注意喚起(壁の角があるとか)のために
   もしくは矢印を作ってトイレ表示をわかりやすくするために
   蓄光シールを貼付する

 (4) 壁の角などに緩衝材を設置する
  ・もしぶつかっても大きな怪我につながりにくいように

 

大切なことは
対象者の方の能力と障害と行動特性をよく把握し
安全のために最優先するのは何なのかを明確化し
実行することと、必ず実行した方法について検証をすることだと考えています。