当たり前のことですが
時間をかけて食べ方が悪くなってきたら
それ以上の時間をかけて良くなっていくものです。
ハウツー的思考回路をしている人や
「食べさせている」「飲ませる」ことしかしてこなかった人には
「食べることの援助」「飲むことの援助」との違いがわからないかもしれませんが。
誤介助にすら適応しようとした結果として
誤学習が生じた場合には
正の介助をすれば正の学習が生じ、その結果として食べ方が良くなってきます。
ただし
学習ですから、時間がかかる
誤学習が強固であればあるほど、時間がかかります。
食べ方が良くなってきても体力が消耗してしまえば
残念なことですが、生命が尽きてしまうこともあり得ます。
だからこそ
誤学習が生じないように
誤介助をしない方がよっぽどラクです。
また、現場あるあるですが
実は認知症のある方の食事介助の場面において、スプーンの適合の問題は大きくて
そこにきちんと介入して言語化している作業療法士はまだまだ少ないように感じています。
それは
再学習の過程において
必ずスプーンの使いにくさの訴えがあるということなんです。
適切なスプーンでも。
というか、適切なスプーンだからこそ、といってもいいかもしれません。
スプーンというのは、手指に密着して使う道具ですから
手続き記憶化しやすい道具です。
しかも毎日3食繰り返し遭遇する場面であり
食べようとする意欲が高ければ高いほど切実な場面となります。
認知症のある方は
たいてい、使いにくいスプーンであっても必死になって適応しようとして
代償動作を獲得します。
その時その状況で代償動作によって食べることができていた。
その動作パターンを違うパターンに切り替えるわけですから
しかも、手続き記憶化していて、遭遇頻度も高く、ニーズも高い場面において。。。
実際、強い違和感を抱いて当然なわけです。
ですが
その訴えが正当であるかというとそれは不当な訴えです。
ここで対象者の方の訴えを間に受けて
「対象者が使いにくいと言ってるから良くないスプーンだ」と受け止める職員もいますが
それはあまりに事実認識が乏しいと言えます。
スプーンを工夫する作業療法士は決してここでメゲてはいけません。
対象者の方の再学習が進展すれば
「使いにくい」と言う訴えは自然消滅してきます。
そこまでは説明をしつつも、対象者の方に頑張り続けられる努力を支えることが必要です。
そうすれば、いずれ必ず前のスプーンよりも自力摂取がスムーズになるという「結果」が現れます。
要するに
慣れるには時間がかかる
わけです。
私たちだって
いろんな決まり事が変わった時に完璧に即応できないことってあるでしょう?
つい、うっかりとか、あぁそうだったと言う過程を経て
完璧にできるようになっていくじゃありませんか。
ただし
その前提として
スプーンを工夫する作業療法士が「適切な工夫ができる」ということが問われています。
ここは作業療法士自身の問題で
どういう上肢操作能力があるから、どういう工夫をするのか
ということが明確に評価・洞察・判断できていて初めて適切なスプーンを工夫することが叶いますが
果たして果たして。。。
スプーンといえば、誰に対しても、単に太い握り手の思い自助スプーンを提示してしまう作業療法士もいるのが現状ですから、このことが問題をややこしくしています。
きちんとした評価のもとに提供された自助スプーンでなければ
使いにくくて当然ですから「使いにくい」という訴えは正当な訴えと言えます。
臨床最前線で
なんとか目の前にいる方をどうにかしたいと願うのであれば
まずは、自分自身の臨床能力を高めるしかありません。
自分の評価を明確にして整合性のある論理的な説明ができるように。
よく「わかっているけど言葉にして説明できないだけで」っていう作業療法士もいるでしょう?
それはあり得ません。
本当にわかっていたら、きちんと言語化できるものです。
自分の見立てに確信があれば
仮に他職種に否定されたとしても、それは否定する人の問題であって自身の問題ではないと区分けすることができます。
この問題には散々悩まされてきました。。。
ナイーブといえばナイーブですが、私も幼すぎたので
自己防衛のために他者を否定する人がいるとは思いもしませんでしたから
かつて、ごむてつさんに「足を引っ張られたら喜ばなくちゃいけない」と
教えてもらった時には心底驚いたものです。
仮に、対象者の方が「使いにくい」と言っても
その感情は今までとは異なる身体適応を要求されている戸惑いなので
当然の感情であり、慣れれば必ず使いやすさを実感できるようになるから
今、使い続けていただくことが重要なのだということがわかります。
そうすれば、単に「とにかく使って」というのではなくて
「あなたの今の戸惑いはもっともだけれど、慣れていないだけ。
慣れれば必ず前のスプーンよりも使いやすくなって
ラクに食べられるようになるから
今、使いにくいと思うけど頑張って使い続けてみて」
と説明できるようになります。
この時に提供したスプーンに確信があるか、ないかが
説明する言葉とともに対象者の方に伝わります。
提供するスプーンについて
どこがどう良いのか、作業療法士自身が明確に把握できていることが全ての始まりです。
対象者の方は
時間をかけて新しいスプーンにも慣れていきます。
この再学習の過程をきちんと観察できていれば
その都度その都度的確な声かけを対象者の方に伝えることができるでしょう。
正の学習を促す、適切な介助方法や環境調整であったとしても
行動変容と学習効果にはそれ相応の時間が必要です。
「食べさせる」のではなく「食べる」ことの援助であれば
その時間の有用性を認識でき、待つことそのものの重要性もまた認識できます。
ですが
本来であれば、そのような時間とエネルギーを使わなくても済むように
最初から予防的対応として適切な介助方法や環境調整をしていれば
対象者の方にとっても
スタッフにとっても
最もコストパフォーマンスが良いのです。
一時的なひと手間を惜しんで
長期的な手間を増やすような関与は
誰にとっても良いことがありません。
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