帰宅要求のある方に対して(2)

 

 

「説明より納得」と言われると
もっともな気がしてしまいがちですが
必要な人にはきちんと説明することによって再認を促すことが大切
ということを前の記事でご説明しました。

ところが、説明しても状況を再認できない方もいらっしゃいます。

そのような時には
1)バリデーションを行う
  個別リハの実施中にはこちらに切り替えます。

2)バリデーションを行えない時
  例えば、集団でのリハを実施中の時には
  あるいは、バリデーションなんて知らないという人は
  こちらの方法をご参照ください。
  
  まず、認知症のある方の状況把握の仕方をよく観察します。

  周囲の状況把握をどのようにしているか
  ということが観察のポイントです。

  帰りたいという理由
  例えば、子供がお腹を減らしている、母親の具合が悪い、バスに乗らなきゃ
  などなどの理由がその方にとってあまりに切実だと
  こちらの声が届かないことが多々あります。
  「うるさい!」と怒鳴られて逆効果になってしまいます。

  そのような時には、安全確保を最優先におこないます。
  (その方自身はもちろん
   周囲にいる他の方の安全確保も図ります)

  認知症のある方の言動を否定せず
  表出した言葉の感情の側面に焦点化してよく聴きます。

  じっとしていられず歩き回ってしまう場合には
  行動を否定せずに安全に配慮しながら見守ります。
  
  周囲の状況が見えていないので
  椅子に乗ったり机に座ったり、
  他の方が座っている車椅子を動かそうとしたり、
  狭いところを歩こうとすることがよくあります。
  危ない行動をしそうな時は、必ず制止します。
  声の調子はその時々で
  ゆったりした口調の時もあれば、きっぱりとした口調を使う時もあります。
  危険度とその方の状態によって使い分けます。

  よく観察していると
  そのうちに、ご様子が変わってくるのがわかります。
  周囲の状況を見ていたり
  表情の険しさが減ってきたり
  口調の荒々しさが減ってくるのを感じることができます。

  そこで
  感覚に焦点化した言葉を使って声をかけます。
  「寒くないですか?」
  「喉が渇いていませんか?」
  「足がかったるくありませんか?」

  これらの言葉に返答してくだされば、一歩前進、誘導可能なサインです。
  誘導可能とはいっても焦ってしまってはいけません。
  焦ると、元の木阿弥になってしまいます。

  大抵の人は
  焦って早く座らせようとか、早く〇〇させようとして
  その方の受け入れ準備状態ができているかどうかの観察をせずに
  一方的にこちらの声かけをしてしまいがちで
  そのために悪循環から抜け出せずにいる。。。というパターンが多いです。

  きちんと観察して
  その方が感じているだろう感覚を言語化した声かけができるかどうか
  が大切なことです。
  そのためにもきちんと観察せねば。  

  それから
  その方が感じている感覚に対応する行動に繋げます。
  寒いと言われたら、膝掛けを貸したり上着を着ていただいたり。
  喉が渇いたと言われたら、飲み物を召し上がっていただく。
  足が疲れたと言われたら、椅子に座っていただく。。。

  「イマ、ココ」という現実に戻っていただくために
  感覚の表現と表現された感覚に基づく行動をする

  その後に、他の方も参加されている集団でのリハに再参加を促したり
  個別リハに再参加を促します。

  この誘導可能性
  「自身の気持ちの中だけにいる状態から
  今の現実の状況を認識しつつある状態への変化」を確認しないで
  最初から集団でのリハ(個別リハ)に参加することを促しても
  決してうまくはいきません。

    ここで提供される集団でのリハあるいは個別リハで
    「やる」ことが、その方にとって明確にわかることである必要があります。

    誘導された時に「何を」「どうするか」が曖昧だと混乱して
    また徘徊を誘発することすら起こり得ます。

  その方の状態
  どんな風に状況を感受・認識しているのか
  を観察・洞察することと
  その変化を感じとれるようになること
  が最も重要なポイントです。

知識がなければ適切な観察・洞察ができません。
変化に合わせて即応できる確かな技術がなければ的確な対応もできません。

まずは、地道にそれらを習得する、表にでない努力こそが必要で
「徘徊する人がいるんですけど、どうしたらいいでしょうか?」
「高齢の女性だったら、タオルたたみがいいです」
などというやりとりが示している
ハウツー的思考態度は、大問題だと考えています。

  誤解のないように書き添えますと
  タオルたたみそのものを否定しているわけではありません。
  暮らしに近い場面であるほど、手が離せなくて
  ちょっと待っていて欲しいという場面は必ずあるものです。
  そのような時に「しのぐ」ためにタオルたたみが有効であることもあります。
  ただし、「しのぐ」ことと「適切な対応」とは異なります。
  専門家であるなら、「しのぐ」しかないから「しのぐ」対応を選択する
  というように自覚しながら「しのぐ」べきだと考えています。

安易なハウツーを求め
安易にハウツーを対象者に当てはめようとする思考態度は
専門家としての本当に必要な地道な努力を
養成・醸成することを放棄させてしまう恐れがあり
認知症のある方ご本人にとっても
真の対人援助を志している人にとっても
弊害以外の何ものでもないからです。

 

参考:「帰宅要求への対応」よっしーずボイス


  
  

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