立ち上がり誤学習からの卒業:下部体幹の再学習を


現場あるあるなのが
立ち上がりの際に、身体を前傾して足に力を入れて踏ん張って
という指導です。
足底に力を入れて踏ん張り、床半力を利用するという方法です。

ところが、現実にはこれでは立ち上がれないんです。

なぜなら
どんなに身体を深く前傾しても
重心の位置は上写真の黄色い線よりも後方にあります。
足底に力を入れて踏ん張るほど床半力は真上に働くので
立ち上がりたくても重心の位置が後方にあるので立ち上がれない。
無理やり立ちあがろうとすると真後ろにのけぞるようにしてしか立ち上がれません。
そこで、のけぞるようにした立ち上がり方を誤学習してしまうか
腰背部を過剰に収縮させて臀部を持ち上げる立ち上がり方を誤学習してしまうかの
いずれかとなります。

その場では立ち上がれたように見えて
離臀の仕方に無理があるので
その時は良くても長続きしません。
遅かれ早かれ腰を痛めてしまいます。
あるいは、股関節の屈曲拘縮を起こしてしまいます。
  
移乗動作を介助するときに
腰部の過剰収縮によって離臀させ
股関節屈曲位のまま、つまり腰部を過剰収縮させたままで移乗させているから
移乗動作をするたびに、股関節を屈曲させた状態で力をいれる誤学習もさせられるので
余分な屈曲拘縮を作ってしまうのではないかと考えています。

生活期にある方で
なぜこんなにも股関節の屈曲拘縮を起こす方が多いのか。。。
疑問に感じたことはありませんか?

善かれと思って逆効果になることをしているかもしれない
だとしたら、逆効果にならない方法を試してみないといけないのではないでしょうか?

じゃあ、どうしたら良いのか

私が提案しているのは
1)慣性の法則を使って離臀させる
  この時に下部体幹と骨盤が分離した状態でしっかり伸展する働きを経験させる
2)座る練習で重心の移動方向を正しく再学習させる
というものです。

認知症があってもなくても
生活期の方で移乗動作の介助量がどんどん増えていく
という現実に遭遇している人は多いはずなんです。
なぜ、ちゃんと介助しているのにどんどん悪くなるのか疑問を抱いたことはありませんか?

ちゃんと介助していたのなら
良くなるか、現状維持できるはずなんです。
もしも、現状維持ができないとしたら
どこかやり方がまずいはずなんです。

科学は過去の知識の修正の上に成り立つ学問です。

リハやケアの分野では
常識とされていることでも、よくよく理屈で考えるととてもおかしな方法論が罷り通っています。
新しい、科学的なリハやケアを目指して、今一度目の前に起こっていることを見つめ直してみませんか?

私が提案している方法論で
立ち上がりができなかった方でもできるようになった方はたくさんいます。
重度の認知症のある方でも改善しました。
座る時に使う筋肉は、立ち上がりの時に使う筋肉と同じで働く向きが逆方向なだけです。
静かにそっと座ることができるということは、正しい重心の移動方向を再現できているということを意味します。
重心の移動方向の再学習が目的なので、
再学習が定着するまでは無理に自立させるのではなく
むしろちゃんと介助した方が良いのです。
単なる介助ではなく、対象者の重心の移動方向を再学習できるような適切な介助が求められます。
再学習できていないのに、頑張らせてはいけないのです。

関連記事をこちらのサイトでも記載していますので
もしよければご参照ください。

「理屈で考える:立ち上がりは前傾して踏ん張る」
「立ち上がり時に下肢屈曲位の人の背部の筋を触ってみて!」
「立ち上がりではなく座る練習を」
「立ち上がり」
「答えは目の前の事実にある」

≠下肢の筋力低下,=体幹の使い方の問題


以前は、つかまり立ちができていたのに
だんだんと、つかまり立ちができなくなってきた方に対して
ちゃんと評価しているでしょうか?
案外「下肢の筋力低下」と思い込んでいる人は多いものです。
 
実際に立ち上がり方を評価すれば
下肢の筋力はMMTで4はある。
でも、体幹と骨盤が分離した動きができないために
立ち上がる時に重心が後方へ変位してしまう方もいます。
そうすると本人も介助者も大変ですし
立位での抗重力伸展活動が行いにくくなってしまい
下部体幹から崩れてしまいます。
下肢の筋力低下のように膝から崩れるのではなく
下部体幹から崩れて次に膝が崩れていくのです。
結果だけを見て、下肢の筋力低下というのは事実とは異なります。

このようなケースは
生活期において、とても多いのに
あまり気が付かれずに見過ごされている現状があります。

立ち上がれない、立位保持が困難 → 下肢の筋力低下 → 筋力強化
というふうに、評価もせずにパターンだけ当てはめる人は少なくありませんが
評価していないので、的外れの見立ての元に行った対応になっていますから、当然結果も出ません。

本当であれば、そこで自身の見立ての適否について心配になって確認しても良さそうですが
多くの人はなぜか、評価もしていないのに自身の見立てには自信を持っていて
見直しをしようとしないんですよね。。。

下部体幹の使い方の再学習をすると
ちゃんと軽介助で立ち上がれるようになり、立位保持も可能となります。

骨盤と体幹を分離させた状態で体幹の伸展ができることが重要です。
そして、この体幹の働きは
立ち上がりや立位保持だけでなく移乗動作や座位姿勢、臥位姿勢にも関連しています。

今までのリハやケアの常識に縛られることなく
まず、今、目の前で起こっていることをありのままに観察することから始めましょう!


座位で身体が傾く方へのポジショニング


_前の記事_
車椅子座位で身体が傾いてしまう方に対して
臥床時のポジショニングをすることで座位姿勢が改善されるケースがあることに言及しました。

臨床の現場では
車椅子で身体が横に傾いている方に対して
1)傾いている側にクッションを当てる
2)車椅子の座面を調整する
対応をされることが多いようです。
 
大切なことは、なぜ傾いている側にクッションを当てると良いのか?
なぜ、車椅子の座面を調整すると良いのか?
その前後で対象者の身体に何が起こっているのかを理解した上で対応する。
ということだと思っていますが、
多くの場合にそれらについての言及はなく、
単にハウツー的にそうするものだと先輩から教えられ
そうした結果の身体の違いを確認することもないのが現実ではないでしょうか。

褥瘡予防と言って
不必要に過剰に下肢を伸展させ踵部を浮かせてしまうと下肢の屈曲拘縮を増悪させてしまいます。
大腿四頭筋や縫工筋は2関節筋ですから
筋緊張を緩和させることなく、遠位の膝を過剰に伸展させたり股関節の外転を行えば
近位の股関節周囲の筋は短縮するしかありません。
クッションを当てている間は膝が伸びているように見えて
クッションを外した途端、ギュンと一気に膝が曲がったり
股関節が内転・内旋してしまうことも現場あるあるです。
 
その場面を切り取って
「やっぱりクッションを当てないとこうなっちゃうのよね」と思われていますが、
現実には起こっていることは全くその反対のことなのです。
クッションが膝の伸展や股関節の外転を援助しているのであれば
クッションを外してもしばらくはその肢位を保持できているはずです。
ところが、実際にはそうではなくて
クッションを外すと逆方向に力が働いてしまうというのは
クッションを外さなくても逆方向に力が入っていて
クッションはその力を止めるだけの作用しかしていなかった。。。
良かれと思っての不適切な対応、過剰に膝を伸展させたり股関節を外転外旋させる対応が
逆効果となって筋緊張を亢進させ、拘縮を増悪させているのです。

なぜ
「ちゃんとクッションを当てているのによくなるどころか悪くなっているのか?」
疑問に思わないのでしょうか?
ちゃんとした対応をすれば悪くなることはないはずです。
悪くなるとしたら、
見立てのもとに行った対応が悪かったのか、
それとも見立てそのものが悪かったのか、
そのいずれか
ということを検討する必要があるのではありませんか?

さてさて、話を元に戻します。

生活期において、
車椅子座位で身体が横に傾いてしまう方で圧倒的に多いのが、骨盤周囲筋の硬さです。
その場合、臥床している時にも骨盤周囲筋は硬く、
往々にして骨盤がどちらかに傾いているものです。


このような骨盤の傾きに対処せずに、
膝を伸展させようとクッションを当ててしまいがちですが
最初にすべきことは骨盤の対称性の担保です。
まず、写真では骨盤が左へ傾いていますから左右対称になるように
骨盤の左側の下に折りたたんだタオルを設置します。
筋肉の働きをタオルで代償させるのです。

臥床レベルでも姿勢保持するために筋肉は働いていますから
筋肉の働きを代償するように、身体とベッドの隙間を埋めるようにクッションを設置します。


姿勢保持のために過剰に働いていた筋肉を休ませることができれば
身体はリラックスしますから、
結果としてリラックスした状態
(骨盤周囲筋の左右差のある筋緊張が緩和される)で
車椅子に座ることができるようになります。
だから、結果として車椅子の座位姿勢が改善されるのです。

リハやケアの分野では
良かれと思って、
でも結果としては過剰筋緊張を生むようなポジショニングをしていることが散見されます。
そこを改めれば良いだけなのです。

筋肉はゴムのように伸び縮みをするものです。
縮みっぱなしでは筋肉は有効に働けません。
車椅子座位で骨盤よりも上の、体幹や上肢の動きに合わせて骨盤内での重心移動が起こります。
その重心移動に応じて骨盤が無理なく動くことで骨盤上位の姿勢を保つことができる。
筋肉の柔らかさを保つことが大切なのです。

そして、ポジショニングを設定したら必ず確認をすることが重要です。
必要に応じて動けるように身体の柔らかさを担保することが目的ですから
設定した後に身体が柔らかくなったかどうかを確認します。
適切なポジショニングを設定できれば、その効果はすぐに現れます。
  
仰臥位でも側臥位でも膝を軽く左右に動かして抵抗感なく動くかどうかを確認します。
もしここで抵抗感を感じるようであれば、設定のどこかに問題があるという意味です。
ベッドの足元から、ベッドの横から全身のアライメントを確認し直して
見落としている部分があるのかどうか、設置したクッションが過剰だったのかどうかを見直します。
  
抵抗感なく膝を動かすことができれば、リラックスできている証左となります。

じゃあ、なぜ、骨盤周囲筋が硬くなるのか
私の考えと実践を_記事に_していきます。

車椅子で身体が傾く方にどうする?


写真のように身体が傾いていると、
第一選択として、右脇にクッションを当てているのではありませんか?


でも、クッションを当てた後に状態を確認してほしいと思います。
クッションを当てたって、右側への傾きは解消されていませんよね?

そもそも、まず全身を観察すると、
車椅子の座面に対して臀部が斜めになっています。
クッションを当てるよりも先に、座り直しをすべきです。

そして
座り直したにも関わらず、身体が傾いてしまう場合には
1)体幹の過剰緊張
2)感覚入力の著明な左右差
3)疲労による座位保持時間の限界
4)その他
の理由によって引き起こされていますので、ここを評価することが重要です。

1)の場合
座位姿勢そのものへアプローチよりも
実は臥床姿勢へのアプローチが重要な場合が多いものです。
臥床時に良肢位保持と言いながら、
実は筋緊張を亢進させてしまうようなポジショニングをしていると
座位姿勢が崩れてしまうことがよくあります。
臥床時のポジショニングを修正することで座位姿勢が改善されるケースに多々遭遇しています。

2)の場合
基礎疾患として、中枢神経障害を持っている方で臥床時間が多い時に起こります。
ベッドの位置は固定されていることが多いので
どうしても職員の関与が同一方向からに限定されてしまいます。
そうすると職員の関与がない側からの感覚入力が減少し著明な左右差を生むことになります。
そのような場合には、可能であれば離床時間を増やし、意図的に職員の関与する位置やテレビや人の出入りなどの感覚入力の左右差を減少させるような環境調整を図ります。
直接的な身体アプローチはせずとも座位姿勢が改善されるケースもあります。

3)の場合
私は普段電車にはほとんど乗りませんが
たまに電車に乗って座席に座れたとしても満員で身じろぎもできない状態だと
長時間座っているとお尻が痛くなって辛くなってきます。
対象者の場合、日中の離床時間が長いと
たとえ高機能の車椅子用クッションを使用していたとしても
辛くなったとしても不思議はありません。
対象者の方は自身の動ける部位の動ける能力を使って対応しようとしますから
前方に滑ったり横に傾いたりすることがあります。
臥床して身体を休める機会を設けることが必要です。

4)の場合
膝関節の拘縮の左右差によって座位姿勢が崩れてしまっていた方もいましたし
全身の伸筋痙性のために股関節の90度屈曲座位が困難な方もいましたし
実は脱肛があって仙骨座りになっている方もいました。
多様な状態がありますので、きちんとした評価が必要です。

私の経験では
生活期にある方で圧倒的に多いのは上記1)のケースであり
しかも、対応し損ねていることが多いケースでもあります。
リハの世界では、身体の総体的な把握がなされないために
「座位の不良姿勢→座位でのポジショニング」「臥位の不良姿勢→臥位のポジショニング」
にとどまってしまい、臥位でのポジショニングとの関連性を認識できていないセラピストも少なくありません。

座位で側方に身体が傾いている対象者は
骨盤周囲筋の過剰筋緊張が起きていることが多く
臥位での過剰筋緊張を抑制するポジショニングによって
座位でのポジショニングはせずとも
座位姿勢が改善されるというケースを多々経験しています。

現場あるあるなのは
自身の気になるところだけを
そう見えないように整える方法論です。
その最たるものが、傾いている身体にクッションを当てるというやり方です。

身体が傾いていたら
痛くないように危なくないように
クッションを当てても良いですが
その一方できちんと状態把握、評価をして
その方に今、何が起こっているのかをきちんと観察し洞察し適切な対応をすべきです。

「座位で身体が傾いている→クッションを当てる」というような単なるハウツーの当てはめ
という臨床姿勢からはもう卒業すべきだし、卒業できる時期に来ていると思います。

それでは
_次の記事_で座位で身体が傾いてしまう方への
臥床時のポジショニングについて記載します。



食欲旺盛?口唇傾向?


食事介助の現場あるあるなのが
口唇傾向の現れなのに、食欲旺盛、開口良好と誤認されるケースです。

認知症の症状として
なんでも口に入れてしまう、口腔周囲にものが近づくと開口してしまう
という状態像が見られているのに
知識がないと、よく口を開ける、食べる意欲が高いと思い込んでしまいます。

単に開口しているだけの場合には
食塊ではなくて、ボールペンや指を近づけても開口しますから
本当に食べようとして開口しているのか、口唇傾向で開口しているだけなのかを
きちんと見分けることが肝要です。

食べたくないのに口唇傾向で開口してしまう方に
どんどん口の中に食塊を入れてあげるような介助をしてしまうようなことのないように
気をつけたいものです。

オーラルジスキネジア?お腹減った?歯軋り?


認知症のある方の場合
オーラルジスキネジアがあるケースはとても多いです。
オーラルジスキネジアというのは、口腔周囲の不随意運動のことで
下顎が左右に動いたり
舌が口腔内で回旋したり
舌が突出してしまうことも起こり得ます。
   
不随意運動の特徴としては、
一定のリズムで同一の動きが繰り返し見られるのが特徴です。
動きのパターンは人それぞれですが
同じ人の動きのパターンが変化することはありません。

だから
きちんと観察すれば、必ずそれとわかるものです。
そのかわり
観察していなければ、見落とされることが多いものでもありますし
観察はしても、知識がなければそれとわかることもありません。

オーラルジスキネジアの結果として
歯軋りが起こることも多く
意図的に歯軋りをしていると誤認されることも現場あるあるですが
オーラルジスキネジアで下顎が勝手に動き続ける結果として
下顎の上にある歯がすり減ってしまうのです。

口をモゴモゴ動かしていると気づいても
知識がなければ「かゆい?」「お腹すいた?」と誤認して
かゆくもないのにお薬を塗布されたり
お腹がへってもいないのに、食べさせられたり
そして、ここがポイントですが
オーラルジスキネジアの人の飲食介助というのは実はとても難しいのですが
無理やり口の中に食塊を入れてしまって食べるチカラを落としてしまう
というのも現場あるあるです。。。

オーラルジスキネジアのある方に対して食事介助をする場合には
前舌をスプーンの背でしっかりと押してあげてください。
それが基本です。
スプーンの入れる向きや抜く向きなどは人によって異なりますが
「その方の食べ方を助ける」という視点に立って観察すれば
どうしたら良いのかが浮かび上がってきます。




見当識障害?視空間認知障害?


見当識には
日時、場、人物の見当識があり、この順序で低下していくと言われています。
今がいつで、ここがどこで、あなたが誰か わかるのが見当識です。

雨降りなど薄暗い日だと日中でも夕方と誤認したり
進行すると自宅にいるのに「家に帰る」と言ったり
ご家族をご家族として認識できなくなったりします。

一方、視空間認知障害とは
空間の相対的な位置関係の認識が低下することで
自分の部屋と食堂の位置関係がわからなくなったり
進行すると自宅の中でトイレから自室に戻れなくなることも起こります。

アルツハイマー型認知症では
視空間認知障害が起こることが多いので
自室の位置を覚えられないこともよくありますが
一方で、前頭側頭型認知症では
かなり進行したケースでも自室の位置を覚えていることはよくあります。

それぞれの疾患ごとに障害の現れ方は異なるし
同じ人でも状態が変動することもよくあります。
それぞれの方の状態をよく観察して
その都度の状態に即応できるように
少なくとも、場の見当識低下と視空間認知障害を混同しないようにしたいものです。

 

幻視?錯視?


幻視とは、事実として目の前にないものが見えてしまう状態で
錯視とは、事実として目の前にあるものを見間違える状態です。

例えば
真っ白い何もない壁を指さして「あそこに子供がいる」
というのは、幻視です。
カレンダーをかけるフックが壁にあるのを指さして「あそこに虫がいる」
というのは、錯視です。

ところが、ここを混同、誤認している人ってたくさんいます。
研修会の講師が錯視への対応なのに「幻視への対応」と紹介していたこともありました。

特に、レビー小体型認知症では、幻視も錯視も起こります。
幻視は、ありありと見えて現実との区別がつかない程なのだそうです。
ある人は、幻視か現実か迷った時にはスマホのカメラで撮影して
写っていなければ幻視だと判断するようにしている、とおっしゃっていました。

錯視については、原因となるものを撤去したり
見間違えないような環境調整を行います。
例えば、夜間に豆電球をつけたまま就寝する人で
電灯の傘の模様が小人に見えて怖がって眠れない、というケースでは
電灯は消してもらい、その代わり常夜灯を少し離れたところに設置してもらったことがあります。

認知症の普及啓発は確かに進んできたと感じていますが
一方で研修会では、いろいろな人がいろいろなことを言っています。
残念なことに、そのすべてが適切とは限りません。
不適切な知識、誤った知識を誤習得しないように自戒するしかありません。
そのためにも、講師の話にはきちんと耳を傾け本質を理解できるように
真贋を見分ける眼を持つように心がけたいものです。

誤解しやすいBPSD?せん妄?身体不調?


せん妄をせん妄として認識できないと
打つべき手立てをできずにせん妄を遷延させてしまう恐れがあります。
そして、それをまたBPSDと誤認したりしがちです。

高齢者は容易にせん妄に陥ります。
認知症があればより一層陥りやすくなります。

高熱や脱水、便秘などの身体的不調が原因で
疎通困難になったり怒りっぽくなったり拒否的になることも多々あります。
認知症のある方がせん妄を合併することもよくあり、鑑別も難しいと聞きますが
BPSDとせん妄は違うということは理解しておく必要があります。

せん妄とは意識障害です。
急性・亜急性的に発症し、症状に変動があります。
準備因子・促進因子・直接因子があり
準備因子とは高齢、認知症、脳血管疾患、感覚障害などその人が持っているせん妄になりやすい背景因子のことです。
促進因子とは、環境変化、感覚刺激の遮断や減少、睡眠不足などせん妄を誘発・促進する要因のことです。
直接因子とは、感染症や薬物、電解質異常などせん妄の直接的な原因となるものを指します。

認知症のある方は、せん妄から離脱していく時に
一気にスパッと良くなることはあまりありません。
良くなったり悪くなったりしながらも緩徐に改善を続け
ふと気づくと「あれ?最近落ち着いた?」というケースも多いものです。

せん妄のある方に対しては、第一義的に非薬物療法が推奨されています。
まず、日光浴をしていただきましょう。
ガラス越しでも良いし
日中は電灯をつけ明るくしましょう。
これだけでも改善される方は多いものです。

カレンダーや時計など
環境の手がかりとして、日時の目安となるものを置いておくことも大切です。
今日がいつなのか、わかりやすくするために
私は付箋紙を使って 矢印 を貼るようにしています。
付箋紙ですから貼り直しが容易なので1ヶ月は使えますし
作り直しも簡単です。


このカレンダーを使用していた方は、過ぎた日付を意識する必要がなかったので 
✖️印をつけていますが、人によっては✖️印はつけない方が良い方もいますので
それは、その人それぞれの状態を把握してご検討ください。

普段と様子が違ったら
まず身体的不調の可能性を確認。
次に経過の確認。
そして不合理な言動を具体的に把握することがポイントです。

実際には
これらの過程をすべてすっ飛ばして
見た目の、大声や混乱だけを問題視して
その場を収めようとする
。。。まだまだそのような対応が圧倒的に多いことを残念に思います。

会話可能→認知症なし?年相応?


その場でお話ができると「認知症なし」と判断されてしまうのは
現場あるあるです。

30年以上前のことですが
サマリーに「年相応の物忘れです」と記載されていた方のHDS-Rは9/30点でした。。。

でも、これって昔の笑い話じゃないんです。。。
  
HDS-Rが5/30点なのに「認知症なし」と判断されていた方がいました。
ここ1年以内の話です。。。

もしかして
「会話に支障がなければ年相応の物忘れ」と誤認しているのかな?と思いますし
まだまだ
「認知症=変なことを言ったりしたりする」
「認知症=BPSDであって認知機能低下ではない」という誤解や偏見があるのだと思います。
だから、その場の会話ができれば認知症ではなく年相応と判断してしまう。。。

認知症の普及・啓発は進んでいると思っていましたが
実際のところまだまだなんでしょうね。。。

その場でお話ができる、会話が成り立つ、というのは紛れもなく能力発揮の表れです。
が、一方で記憶の連続性がない、近時記憶が低下している
という困難の現れを見落とすということは
的確な援助ができないということを意味しています。

それに、認知機能というのは、記憶だけでなく、いろいろな側面があり
疾患によって、また同じ人でも時期によって、前景化する症状や障害が変化するものです。
それらをすべて見落としてしまうと
対応が後手に回る恐れがあります。
そして、そのことを自覚すらできない。。。

その場の会話が可能な方でも
見当識や記憶の連続性については、ちょっと意識するだけで確認することも可能です。
普段の何気ない会話でも、こちらの知識と心がけ次第で得られる情報の量も質も変わってきます。