近時記憶障害の現れ方の一例をご説明します。
たとえばこんな風に現れます。
敷地内で開催されているお祭りを認知症のある方と一緒に見学に行きました。
「ここでしばらくお祭りを見物しましょう」と声をかけました。
が、しばらくして不安そうな表情で
「ここにいていいんですか?」とおっしゃいます。
「ここにいていいんですよ」と答えました。
ホッとした表情で「それなら良かった」とおっしゃいました。
けれど、5分もしないうちに不安そうな表情で
「ここにいていいんですか?」とおっしゃいます。
「ここにいていいんですよ」
「お祭りを見物しに来たんですよ」と答えました。
ホッとした表情で「それなら良かった」とおっしゃいました。
けれど、5分もしないうちに不安そうな表情で
「ここにいていいんですか?」とおっしゃいます。
「ここにいてもいいんですけどお部屋に戻りましょうか?」と言うと
うなづいたのでお祭りの見学を途中で切り上げて帰ってきました。
その場その場での言われた言葉の意味は理解できますが
時間が経つと忘れてしまいます。(時間干渉)
不安そうな表情を浮かべていたことから
おそらく「見慣れない場所だ」「いつもいる所とは違う場所だ」ということは
認識できていたのだと推測します。(能力)
だから「ここはどこ?」「なぜここにいるのだろう?」と不安になった。
そしてそのことを言葉にして尋ねることもできます。(能力)
答えてもらえれば理解することもできますが
時間が経つと忘れてしまう。
記憶の連続性が低下している。
即時記憶は保たれているけれど
数分前のことは忘れてしまうという近時記憶障害が現れています。
「さっき言ったのに同じことを何回も言わせないでよ!」
と怒っても状況は変わりません。
認知症という状態像は「覚えたくても覚えられない」のです。
「さっき言ったのに同じことを何回も言わせないでよ!」という言葉は
例えて言うなら、脳卒中後遺症の片麻痺のある方に
「どうしてその手は動かないのよ!」と言ってしまうのと同じことを意味します。
そんなことは誰も言いませんよね?
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