その人らしさは諸刃の剣


リハやケアの分野で
「その人らしさ」という言葉を聞いて
プラスのイメージを抱く人は多いと思いますが
さて、「その人らしさ」って何ですか?

「その人らしさを大切にする」「その人らしさを尊重する」
とは、リハやケアの分野でよく聞く言葉ではありますが
私たちのどういう言動がその人らしさを大切にすることで、
どういう言動がその人らしさを尊重していないことなのでしょう?

リハやケアの分野あるあるなのは
なんとなく喧伝されていることに乗っかってしまいがちなことです。
具現化する努力よりも唱え合うことで満足してしまいがちなことです。

本来、「その人らしさ」にプラスもマイナスもありません。
「その人らしさ」がプラスに働くかマイナスに働くのかを
決定づけるのは、その時の状況です。

認知症のある方の場合に
物事をきっちり遂行するタイプの方が
きっちり遂行するよりも優先すべきことを判断できずに
周囲にとってちょっと困った行動に見えることもあります。
 
例えば、集団でのActivityの後に
自身が座っていた椅子をきちんと机の中に入れてくださり
その隣の椅子も同様に片付け、さらにその隣の椅子も。。。と
「きちんと片付ける」ことに集中してしまい
なかなかお部屋に戻れなくなってしまったり。

例えば、他者への気遣いを行動で示すタイプの方が
自分が座るように促された席に職員を座らせようと思って
違うところに移動して何をどうするのかわからなくなってしまったり。

その人らしさがあるがために
動作干渉となってしまい、近時記憶の低下によって
そもそもの目的、何をする予定だったのかがわからなくなってしまう
他者に助けを求めることができなかったり
周囲に誰もいなければ自分でなんとかしようとしてドツボにハマってしまう
。。。ということもよくあることです。

その人らしさは諸刃の剣となって現れる

「その人らしさを大切にする」
「その人らしさを尊重する」
と言う人は多いですが
私には具体的に現実的に何をどうすることを意味しているのかがわかりません。
だから私はこれらの言葉を使ったことはありません。

そのかわり、その方自身が大切にしていることは何なのか
普段の場面から観察・洞察するようにしています。
長年大切にしてきたであろうことがプラスに働くようにActivityを選択したり
長年大切にしてきたであろうことがどのように生活障害というマイナスのカタチで
反映されているのかを観察するようにしています。
そうすれば、生活障害を援助するにあたり
より適切な介助を、より適切な言葉を選び、より円滑に
大切にしてきたこととイマ、ココですべきことを両立させる働きかけが可能となります。

さて、あなたに質問です。
「その人らしさって何ですか?」
端的に明確に答えられますか?

その人らしさって何?
そう尋ねられて端的に明確に言語化できる人は少ないものです。

その人らしさとは、特性のことです。
その人が繰り返し使ってきた行動のパターンのことです。

行動のパターンなので
パターンが良い結果となることも
そうでないこともあります。

認知症のある方の場合
すでに書いてきたように
特性が裏目に出ると生活障害というカタチに見えるので
単に判断力低下と職員が誤認してしまい適切に対応できない
しかも、職員がそのことを自覚できていない
認知症のある方が疑問を抑圧せざるを得ず
本当の問題が表面化しにくい
認知症のある方は表面的に職員の指示に従っても
本当の信頼関係が構築できにくい
というケースがかなりあります。

「その人らしさを大切に」と唱えている場合じゃありません。
繰り返し唱えることで事態が改善されることはありません。
唱える前に、まず概念の本質を理解することが大切です。
概念の本質を理解できれば観察・洞察への道が開けます。

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