認知症のある方が帰宅要求などのBPSDのために
Activityを拒否することもよくあります。
このような時には、なんとか宥めてActivityに誘導しよう
などと考えない方が良いです。
作業療法ジャーナルvol.47no.7にて
「バリデーションの紹介ー体験談を通して」で紹介した事例ですが
帰宅要求のある方にバリデーションを提供したことがあります。
普段、帰宅要求などなかった方が
かなり大きく強い口調で「家に帰る!」と言い続けていたので
ちょっと驚きましたが、バリデーションの後ですっかり穏やかになられました。
落ち着いてから、Activityの見学に導入しました。
その時の穏やかな表情は忘れられません。
ここでのやり取りとその意図については
上記紙面にて紹介してありますのでご参照ください。
バリデーションで強調しているのは
BPSDが解消されるのは結果であって目的としない
ということです。ここは誤解しないでほしい。
私もとても穏やかな気持ちになって
その場の雰囲気に浸っていたのですが
一連の過程を近くで見ていたスタッフが
「やっぱり気持ちをそらせると良いのねぇ」と言いました。
もうガックリです。。。
やりとりの過程をずっと見て聞いてたよね?
私がいつ気持ちをそらせるようなことを言った?
村上春樹の小説の登場人物のセリフに
「説明しなくちゃわからないってことは説明したってわからないってことだ」
という言葉がありますが
まさしく。。。
見れども観えず
観ようとしなければ観えないし
人は自分の観たいように見る
実は高齢者を対象とした施設・病院に勤務する職員は
職種を問わず、このように
「何かやらせて気を逸らすことができれば帰宅要求はおさまる」
と考えている人もまだまだ多いのが現実です。。。
実際には
「BPSDをおさめる」「気をそらせる」対応をしても
効果がないどころか逆効果となり
火に油を注ぐような事態に遭遇しているはずなんです。
しかも
「BPSDをおさめる」「気持ちをそらせる」という対応が良いものだとすると
上手くごまかすことができるのが良いケアということになってしまいます。
そんなことがあるわけがない。。。
帰宅要求は必然があって生じるものです。
確かに周囲の人は困ってしまいますが、ご本人が一番困っているのです。
バリデーションに限界はありますが
強力なツールでもあります。
私の知っている限り、他のツールとは一線を画すものです。
もし、今、辛い思いをしている方がいたら
バリデーションを学ばれることをお勧めいたします。
本もビデオもありますが、
本を読むだけでは理解が限定的になってしまうと思います。
ぜひセミナーを受講してみてください。
世界共通で体系化されていますし、
体感しながら知識と技術を学ぶことができます。
興味のある方は 公認日本バリデーション協会 にアクセスしてみてください。
もし、あなたが
気になって仕方がない、心配で心配でたまらないことを抱えている時に
「あちらで楽しそうなことをしていますよ」
と話しかけられたら、どう感じるでしょうか?
「それはお気遣いくださり、ありがとう。
どうぞ皆さんでお楽しみください。」
と相手を気遣いながらも自分には関係ないこととして断るのではないでしょうか。
最初は丁寧に断ったのにしつこく誘われたら
「私は今それどころじゃないのよ」
「嫌だって言ったでしょう」
誘われるたびに嫌な思いが募って、こちらの断り方も強くなってしまう
やんわり断っても引いてくれないから強く断ることになります。
これって「易怒的」なことでしょうか?
でも、認知症のある方がこのような表現をすると
「易怒的」って判断されがちですよね。
昨今は、認知症の普及啓発が進んでいますから
以前ほど「ボケたらおしまい」という言葉を公に言う人は少なくなりましたが
一方で公には言わないだけで内心では思っている人もまたまだまだ多いものです。
「認知症のある方の言動には正当なものではない」と内心思っていて
「気持ちをそらせる以外に有用な方法論があるのだと知らない」のであれば
「帰宅要求から気持ちをそらせる」以外の対応ができないのも仕方がないのかもしれません。
帰宅要求のある方への対応については
こちらにまとめてありますのでご参照ください。
・帰宅要求のある方に対して(1)
・帰宅要求のある方に対して(2)
Activityの導入時、実施中に拒否されたら
その表現にきちんと向き合いましょう。
心配な気持ちを吐露してもらいましょう。
多くの場合に、心配な気持ちを吐露してもらったら
かえって収拾がつかなくなり混乱を増してしまうという職員の側の思い込みによって
そのような事態になることを回避しようとして感情吐露の抑圧、ごまかし、に至ります。
「私のお父さんの先生のお通夜だから行かなくちゃ」
「私の母親の具合が悪いから早く帰らなくちゃ」
「子供がお腹を空かせて学校から帰ってくるから戻らなくちゃ」
Activityどころじゃないですよね?
バリデーションを実践できるようになると
過去にその方がどんな風にご家族に対応していたのか
その一端を感じ取れるようになることです。
こんなにきちんと周囲の方に対応されていたんだ
こんなにご家族から大切にされていたんだ
こんなに子供さんのことを気遣っていたんだ
当時の時代背景を知っていれば、そうするにはどれだけの努力が必要だったのかもわかるようになります。
感情と体験のいずれか、もしくは双方が
過去に本当にあった不安な感情を抱いた体験を想起させます。
感情と体験をキーワードに、現在と過去が結びついてしまう。
このような対応は決して異常なものではありません。
私たちにも実際起こっているものです。
ただ、普段は自覚せずにコントロールできているだけで。
だからこそ
一見不合理に見える感情の吐露に対して正面から向き合う意義があります。
感情を吐露し、そうするしかなかったことを共感されることで
過去の体験と感情を受け入れることができるようになっていく
バリデーションそのものによって起こることですが
Activityにも似たような作用があります。
だからこそ、無理矢理Activityに導入してはいけないし
Activityに誘導することで気持ちをそらせるようなことはもってのほかなんです。
・・・
次の記事では
Activityやリハ室、OT室への誘導の工夫について記載していきます。
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