私は認知症治療病棟に勤務しているので
病棟にいる時間が長いというメリットを最大限活かすことができます。
自分が関与するリハの時間以外に
対象者の方がどんな風に過ごしているのか
時間帯によっての変化などを
すぐに自分の眼で確認することができます。
電子カルテは本当に便利で
採血結果などもすぐに確認することができます。
確かに
生活障害やBPSDには
対象者の能力と障害と特性が反映されていますが
障害が本当に障害なのか
自身が判断した障害なのか
ということに関して、きちんと確認をしています。
30年以上も前に
実習に行った時にものすごく怖かったことは
「自分が対象者の状態像を判断する責任を持つ」
ということです。
見立てを間違えたら、申し訳ない。
他人様の状態像を間違えて把握したら、とんでもなく失礼なこと。
自分は幼少の頃にそろばんを習っていたのと家庭環境から
検算する、確認するということは習い性となっていましたが
それでも、強く感じたことです。
見立てた障害であるならば
特定の場面だけでなく
いろいろな場面に影響が現れるから
ある特定の場面だけでなく、他の場面での現れもきちんと確認しています。
病棟にいる時間が長いとその確認が容易に行えます。
一番、良いのは
自然な場面での対象者の方同士の関係性を観察できることです。
職員に対しては
職員だということがわかって気を使った対応をする方も大勢いるからです。
何か問題が表面化してから観察するのではなくて
普段から観察していれば、普段との違いを明確に感受することができます。
例えば
普段は誰に対してもニコニコして穏やかに応対する方なのに
何をどう言っても怒りっぽくなる方がいます。
身体の不調がないか、電子カルテで体温表を確認すると
便秘で排便が3日ないことがわかります。
当然、看護介護スタッフは排便援助をしていますから
排便後の言動変化を観察していると穏やかになったことがわかります。
一度、そういうことがあれば
排便間隔を頭の中に入れておいて観察を重ねると
あぁ、便秘の時に怒りっぽくなる方だということがわかります。
この方への対応としては
結果として起こっている「易怒性」への対応を考えるのではなくて
排便コントロールをすることが大切だと判断できます。
また
認知症のある方では水分量が管理されていたとしても
低ナトリウム血症や脱水が起こりやすいものです。
今まで食事を自力摂取していた方が
急にスプーンをうまく扱えなくなり食べこぼしが増えるということも起こります。
結果として起こっている
スプーンをうまく扱えないという表面的な困難を見て
自助具を作って提供しても食べこぼしは改善されにくいものです。
低ナトリウム血症であれば
食事以外の場面でも倦怠感や覚醒低下などが現れているものです。
この時に普段のその方の暮らしぶりを認識できていれば
今、起こっていることとの違いを判断できます。
元来、血中ナトリウムが低めの方は要注意。
主治医と相談して、採血、低ナトリウム血症への対応をすることが最優先となります。
これらのケースは非常にわかりやすい例ですが
「何をどう言っても怒る人がいるんですけど、どうしたら良いでしょうか?」
「食べこぼしが多い人がいるんですけど、どうしたら良いでしょうか?」
という表面的にハウツーを求める質問や
そのような質問に反映されている臨床思考が役に立たないことの証左でもあります。
状態把握、評価、アセスメントが重要とは
繰り返し強調していることですが
的確な状態把握のためには、その前提として総合的な情報収集が必須です。
総合的な情報収集とは何か
普段の対象者の能力と障害と特性を把握していること
全身状態とその傾向と経過を把握していること
何か普段と違う状態があれば、該当場面だけではなくその他の場面での言動を確認すること
総合的な情報収集がないと状態像を見誤ります。
非常によくあるのが
「口の中に溜め込んでしまって飲み込んでくれない人がいるんですけど
どうしたら良いでしょうか?」
という質問です。
覚醒状態はどうですか?と確認すると
「大丈夫です」という答えが返ってきます。
食べる時に目を閉じていませんか?
食べ始めは飲み込んでくれるけど後半になると溜め込みが目立ちませんか?
食事以外の場面でも目を閉じていることが多くありませんか?
声をかけても返事がないことが多くないですか?
と確認すると「その通りです」と言われたりします。
「それを覚醒不良と言います。溜め込みよりもそちらの方が問題です。」
と答えることがよくあります。
食事の場面での困りごとは
なんとか食べていただこうとして
「食べる」ということに限局して
表面的に見える問題を本質的な課題として捉える人が多くいます。
このような臨床思考は食事場面に限りません。
該当場面での職員の無自覚な要求が認知バイアスとなって
対象者の状態像把握が的確に行えないということは現場あるあるです。
このような臨床思考は
問題を見誤らせ、誤認させ、対応を誤らせたり、後手に回ることになりかねません。
事実を事実として観察できる
事実に反映されている能力と障害と特性を洞察できる
その担保として、総合的な情報収集の必要性を痛感しています。
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