ムセた時は呼気の介助


ムセに関する誤解については
こちらでも記載しましたし、機会あるごとに述べていることですが
じゃあ、どうしたら良いのか

ムセたら、背中を叩いたりさすったりするのではなく呼気の介助をします。

ムセとは、呼気のパワーで異物を喀出する作用なので
その作用を高める補助をする
というわけです。

座位のままで背中を叩くと、逆に気管の奥に異物を落とし込んでしまう恐れがあります。
窒息時の対応として、ハイムリック法の他に背部叩打法というのがありますが
頭部を胸よりも下方に下げた位置で叩く方法です。
(成人であれば、机の上にうつ伏せにして頭を下げ肩甲骨の間を叩きます)

ムセられるということは気道が閉塞していない、つまり呼吸ができている状態です。
だから呼気の介助が有効です。
窒息というのは気道が閉塞しているために、呼吸ができていないので
この場合に呼気の介助をしても意味がありません。

異物を喀出する努力をするとともに
医師を呼ぶ、医師のいない施設であれば救急車を呼び
救急隊が到着するまでの間、心臓マッサージをして脳への血流を確保することが必要となります。

いずれにしても、そんな状態にならないように
日々の食事場面において、適切な介助を含めた食環境の提供を実践・継続する方が
対象者にとっても職員にとってもずっと心身の負担が少なくてすみます。

食事中に呼気の介助をする時には
肺の右上葉が一番換気量が多いと言われていますので
右鎖骨下に手掌面全体をぺったりと当て
各人によって膨らみやすい方向があるので、その方向に垂直に
呼気のタイミングで圧を加えるようにします。

私の本「_認知症のある方でも食べられるようになるスプーンテクニック_」
の34ページにも記載してありますので、ご参照ください。

以前に、
食事中に患者さんが
誤嚥によって気道狭窄を起こした時にも(ヒュー音がした)
呼気の介助で大事に至らずに済んだことがありました。
私は喘息患者さんに接したことはなくて
「喘息でヒューヒュー音がして呼吸が苦しくなることもある」
というのを何かで読んだ程度しか知りませんでしたし
その時には離れた場所で他の方の食事介助をしていましたが
その音を聞いてすぐに「これは危険!」と思いました。
2回目のヒュー音が聞こえた段階で飛んでいってすぐに呼気の介助を始めました。
すぐに喀出できてなんの問題もなかったので本当に良かったのですが
もしも「呼気の介助はムセた時」というようなハウツー的理解しか
していなければ対処できなかったと思います。
最悪、無理に食塊を除去しようとして
逆に奥に押し込んでしまっていたかもしれません。
「ヒューというような音→誤嚥によって気道狭窄が起きた
→呼吸はできている→呼気介助して喀出できればヒュー音がなくなる」
というように
概念の本質を理解していれば
何が起こっているのかがわかり緊急性の判断もできるから
対処も的確にできるのだと再確認
できました。

緊急時対応が的確に行えるということも重要ですが
普段から基本に忠実に介助することのほうが
ご本人にも対象者にとっても心身の負担が少ない最大のリスク対策となります。
食べ方(口唇の動き、舌の動き方、喉頭挙上の動き)をよく観察する
スプーン操作を適切に行う
「そんなことわかってるけど忙しいからできない」と言うのではなくて

  こう言う人は本当に多いけど、そう言う人で
  基本に忠実に介助している人に会った試しがありません。


忙しいから、大変だからこそ、ポイントを押さえる
時間がかかるのは不適切な介助をしているからと認識を改めましょう。

  事実、コロナ渦で感染対策をしながらベッドサイドを周り
  私ひとりで2時間に25人〜30人近くの水分補給をして
  その中で食塊を吹き出してしまうなどの食べ方を改善することもできました。


食事場面は生命に関わる場面だからこそ
普段から、覚醒、姿勢、喉頭の動きなどをきちんと観察し、
スプーン操作の基本に沿って介助する、

介助の基本を徹底するということが最大のリスク対策にもなります。

   

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